詳しい任意後見制度のしくみ
– 任意後見制度の詳しいしくみ
◆任意後見契約
意後見契約とは、本人の判断能力が十分なうちに、任意後見人になることを引き受けた人(任意後見受任者)と任意代理の委任契約を結び、将来、判断能力が不十分な状況になったときに備えるものです。
この中には、今回問題となった事件のように、任意後見契約を結ぶとともに、判断能力が低下する前の金銭管理等について、「任意代理契約」を締結する場合もあります。
時間的な流れとしては、
(2)判断能力の低下
(3)任意後見契約発効(任意後見監督人選任)
という順になります。
このうち、(1)と(2)の間に「任意代理契約」を締結する場合がありますが、ここで財産侵害等の被害が多く発生しています。
(注)すでに判断能力が不十分な方については、任意後見制度ではなく、法定後見制度を利用することになります。
法定後見制度については、家庭裁判所のほか、区市町村や区市町村社会福祉協議会、弁護士会・司法書士会・社会福祉士会などの専門機関にお問い合わせください。
(ただし、専門機関の場合、相談は有料の場合がありますので、事前にご確認ください。)
◆任意後見契約全般に関する注意点
(1)契約は公正証書で作られます
任意後見契約は、公正証書で作らなければなりません。(任意後見契約に関する法律第3条)
任意後見受任者と本人同士で契約するだけでは、任意後見契約としての効力は発生しませんので、注意してください。
(2)契約の効力が生じる時期を正しく理解する
任意後見契約の効力が生じるのは、家庭裁判所が任意後見監督人を選任したときからです。
本人の判断能力が低下した場合には、家庭裁判所に任意後見監督人の選任の申立てをすることになりますが、申立てができるのは、任意後見受任者、配偶者、四親等内の親族になります。なお、判断能力があれば、本人も申立てをすることができます。
つまり、任意後見契約を公正証書で作成した段階で、すぐにその効力が生じるわけではありませんので、注意してください。
(3)任意後見受任者のことをよく理解する
親族でなくても、友人、専門家といった個人や法人なども任意後見受任者になることができます。
【任意後見受任者が個人の場合のチェックポイント】
*契約の内容を丁寧に説明してくれているか。
*専門家の場合、万が一の事故に備えて、損害賠償保険に加入しているか。
*専門家の場合、専門職団体に所属し、所定の研修等を修了しているか。
【任意後見受任者が法人の場合のチェックポイント】
*法人は担当者にどのような研修をしているか。(研修修了証などの証明があるか。)
*担当者の活動を法人に報告するといった監督のしくみが、契約の内容に盛り込まれているか。
*法人が、これまでにすでに発効している任意後見契約を複数件受任しているか。
(登記した契約が何件あるかではなく、発効した契約が複数件あるか。)
(4)契約の内容を確認する
契約の内容は自由に決めることができますが、契約の中に本人が必要としていること以上のことが盛り込まれていないか、確認する必要があります。
契約の内容については、通常「代理権目録」という書類にチェックしていくことになります。以下の例のように、本来必要としていないことまでチェックしていることがないか、確認してみてください。
なお、契約の内容には、介護労働のような事実行為は含まれません。
・入院の手続きや入院費の支払いだけを必要としているのに、預貯金の管理まで契約に含まれているようなことはないか。
・預貯金の管理だけを必要としているのに、不動産の管理まで契約に含まれているようなことはないか。
(5)任意後見人には取消権が認められていないことを知っていますか?
本人の自己決定権を尊重するという観点から、任意後見人には、同意権・取消権がありません。したがって、本人が不利益な契約をしてしまったときでも、それを任意後見人が取消すことができません。
つまり、任意後見制度は、将来、判断能力が低下したときに、不利益な契約をすることのないように備えるためのものではありませんので、注意してください。
(6)任意後見人に支払う報酬の額は適切か。前払いしていませんか?
一般的には、任意後見人を専門家等の第三者に依頼した場合には、報酬を支払うのが通常ですが、親族の方が任意後見人になる場合には、無報酬のことが多いようです。
報酬額は自由に定めることができますが、おおむね月額数万円のことが多いようです。報酬は本人の財産から支払うことになりますので、報酬額が極端に高額ではないか、確認してみてください。
また、任意後見人への報酬の支払いは、任意後見監督人が選任された後に必要になります。契約を締結した時点で前払いをする必要はありません。
(7)任意後見監督人にも報酬を支払う必要があることを知っていますか?
任意後見監督人が選任された後は、任意後見人だけでなく、任意後見監督人にも報酬の支払いが必要になります。任意後見監督人の報酬額は、家庭裁判所が決定します。
また、この報酬も、本人の財産から支払うことになります。
任意後見監督人に支払う報酬額まで考慮した上で、任意後見人への報酬額を決めているか、確認してみてください。